加熱式タバコの健康被害について、今ある科学的情報で考えてみた!!
喫煙によるニコチン依存症は、“病気である”という事が認識されるようになり、
2006年から、一定の健康保険を使っての禁煙治療を受けることが可能となりました。
しかし、禁煙外来で用いられる、『ニコチン代替療法(ニコチンを含まない飲み薬、ニコチンパッチ、ニコチンガムの3種類)』は、気分不快、嘔気などの副作用があり、治療を完遂できず、途中で離脱してしまう患者さんも少なくありません。
一方、IQOS(アイコス)やPloomTECH(プルーム・テック)などに代表される、加熱式タバコのシェアが日本で急速に拡大しています。禁煙をめざして、あるいは周囲への影響を考慮して従来のタバコから電子タバコへの移行する人が多くなっています。
実際、電子タバコの広告では「紙巻タバコの煙と比較して、有害性成分の量を90%低減」と大きく謳われているますが、本当に健康被害はないのでしょうか?
科学的根拠を元に考えていきたいと思います。
ニコチン代替療法
ニコチン代替療法には、パッチ、ガム、スプレーなどのほか、わが国ではバレニクリン製剤(商品名:チャンピックス、ニコチネル)という錠剤も使用されている。
しかし、前にも述べたように、バレニクリン製剤(チャンピックス)には多くの副作用の報告があります。代表的なものが、悪夢・幻覚・幻聴・意識消失・意欲低下・不眠・うつ症状・嘔気・皮膚掻痒感などで、これらの強い副作用により、治療が完遂できず途中で離脱してしまう患者さんもいらっしゃるのが現状です。
電子タバコの特徴
現在普通のタバコは、煙を吸うのに対して、電子タバコは水蒸気を吸い込むという点が大きな違いである。したがって普通のタバコは、タバコの葉を燃やすことで生じる臭いや有害物質を発生する。
一方電子タバコはタバコの葉を使用せずに、e-リキッドといわれる液体を電力で熱することで生じる水蒸気を吸い込み、その臭いを自分の好みに合わせて楽しむことができるのが売りである。
電子タバコといってもすべてが完全にニコチン・フリーではなく、少量のニコチンを
含有しているものもあり、本研究で用いられた電子タバコには18mg/mLのニコチンが含まれている。
加熱式たばこ製品の「iQOS(アイコス)」は血管に悪影響を与える
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のグループによる研究によると、iQOSの蒸気に曝露したラットの血管内皮機能は、一般的な紙巻きたばこの煙に曝露したラットと同程度に低下していたという。*1
UCSF医学部循環器内科学教授のMatthew Springer氏らはラットに(1)iQOSを加熱した蒸気(2)紙巻きたばこ(マールボロ)の煙(3)清浄な空気―のいずれかを曝露させた上で、血流依存性血管拡張反応(flow-mediated dilation;FMD)検査により血管内皮機能を評価した。曝露は1回15秒間とし、5分間に10回行った。
その結果、血管内皮機能はiQOS群で58%、マールボロ群では57%低下した。また、曝露を1回5秒間として5分間に10回行ってもiQOS群で60%、マールボロ群では62%の低下が認められ、iQOSの蒸気への曝露はマールボロに曝露した場合と同程度の血管内皮機能の低下をもたらすことが示された。
血管内皮機能の低下は動脈硬化をもたらし、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高めると言われています。「加熱式たばこの使用者は従来のタバコの喫煙者と同様に、心血管の健康障害に直面する可能性があると、考えられます。
また、研究グループは「加熱式たばこは煙は出さないが、血管の状態を悪化させるさまざまな化学物質を含んだ蒸気を発生させる」と説明。
電子タバコの「有害性成分9割減」≠病気になるリスク9割減
加熱式タバコ使用が広がった背景には、「従来の紙巻タバコに比べて有害性が少ない」という認識が大きく影響していると考えられる。実際、広告では「紙巻タバコの煙と比較して、有害性成分の量を90%低減」と誇大広告とも思われる、巧みなキャッチフレーズを見かける。
しかし、有害性成分が90%カットされたからと言って、病気になるリスクも90%低減されたわけではありません。有害性物質の量が1/10になったからといって病気になるリスクも1/10になるわけではない」と指摘した。
最後に、日本呼吸医学会からの声明をご紹介したいと思います。
- 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は、健康に悪影響をもたらす可能性がある。
- 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用者が呼出したエアロゾルは、周囲に拡散するため、受動喫煙による健康被害が生じる可能性がある。
- 従来の燃焼式タバコと同様に、すべての飲食店やバーを含む公共の場所、公共交通機関での使用は認められない。
加熱式タバコによる、身体への影響を少しでも分って頂けたのではないでしょうか?従来の燃焼式タバコから、加熱式タバコに移行しても、動脈硬化やそれに引き続き健康被害から逃れることが出来た訳ではありません。
加熱式タバコに切り替えることで、タバコ関連疾患のリスクを減らすことができるとは言えないというのが、専門家の見解です。
しかし、我々医療従事者は、「新型タバコに変えました!」という患者さんに対して、まずはその意向や背景にある事情を尊重しています。頭ごなしに“加熱式タバコはダメ”とは言いません。まずは従来の燃焼式タバコをやめられた事は、患者さんにとっては前向きなステップの一歩です。なので、”良かったですね!”と言って、患者さんとともに、次のステップに進む手助けをしていきたいと考えています。
少しでも、「タバコをやめてみようかな~?」と、何となくでも良いので感じられた方は、ぜひ”禁煙外来”の足を運んで頂けると嬉しいです。
原著論文はこちら
Primack BA, et al. Am J Med. 2017 Dec 10. [Epub ahead of print]
Tabuchi, et al. Tob Control. 2018 Jul 27. [Epub ahead of print]
Uchiyama S, et al. Chem Res Toxicol. 2018 Jul 16. [Epub ahead of print]
参考
電子タバコvs.ニコチン代替療法、1年後の禁煙率/NEJM(2019/02/07掲載)
フィリップ モリス インターナショナル社の研究
米国国立がん研究所(NCI)による電子たばこの研究
全米たばこ調査による分析結果
PMI CEO Andre Calantzopoulos氏インタビュー(Nikkei Asian Preview)
非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに対する日本呼吸器学会の見解
日本呼吸器学会の見解中に引用されているWHOの報告書
東京都子どもを受動喫煙から守る条例