現役メディカルスタッフが語る!!健康な身体と心を手に入れる極意

循環器専門病院に勤務するメディカルスタッフ(健康オタク)が、最強の身体と心を手に入れるための方法を伝授します!巷のうわさ話ではない、科学的根拠(Evidence)に基づいた健康法を医療専門家の視点から徹底的に語ります。

胃がんは防げる病気って、知ってましたか!? 第二弾 ~科学的根拠を踏まえて~

皆さん、こんにちは(^^)
コロナウィルスの感染拡大に伴い、外出やイベントへの出席が制限され、自宅でもんもんと過ごしている方も多いのでは??
そんな時は、マイケルゆみこのブログを読んで、健康の知識を増殖させましょう!
 
 今回は、前回に引き続き『胃がんとピロリ菌』についてお話を進めていこうと思います。WHO(世界保健機関)が1994年、ピロリ菌を「確実な発がん因子」と認定したことを受け、日本では2000年からピロリ菌の除菌治療が健康保険に適用されました。

実際、胃がん患者の99%が感染陽性ないしは感染の既往者であり、未感染者に胃がんが発症することは非常にまれであることが確認されています。

胃がんとピロリ菌の関係は分かったし、前回のブログでピロリ菌の除菌方法は分かったけど、、、本当にピロリ菌を除菌して胃がんを予防できるの!?
って、思っている方も多いはず。なので、科学的根拠を元にして『ピロリ菌除菌によって胃がん発症率が低下する』というご報告をしようと思います。今回取り上げる論文はコチラです。
 
 
第1度近親者に胃がんの家族歴があるHelicobacter pylori感染者では、H. pyloriの除菌治療によって胃がんのリスクが低下することが、韓国・国立がんセンターのIl Ju Choi氏らの検討で示されました。*1
※第1度近親者:ある人にとって、両親、兄弟、姉妹、子供をさす。
 

 

除菌治療の有無で胃がん発生を比較する単一施設の無作為化試験研究内容 

研究内容
  • 韓国の単一施設で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験
  • 期間は2004年11月~2011年12月(韓国・国立がんセンターの助成による)
  • 対象は、年齢40~65歳、第1度近親者に1人以上の胃がん患者がいるH. pylori感染者であった。
  • 胃がんや他臓器のがんの既往歴のある患者や、H. pylori除菌治療歴のある患者は除外された。
  • 被験者は、H. pylori除菌治療を行う群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。
  • H. pylori除菌治療は、ランソプラゾール(プロトンポンプ阻害薬)30mg+アモキシシリン1,000mg+クラリスロマイシン500mgが、1日2回、7日間投与された。
 研究結果
  1. 1,838例が無作為化の対象となり、除菌治療群に917例(平均年齢48.8±6.0歳、男性49.9%)、プラセボ群には921例(48.8±6.3歳、49.1%)が割り付けられた。
  2. 1,676例(修正ITT集団、除菌治療群832例、プラセボ群844例)が主要アウトカムの解析に含まれた。
  3. 主要アウトカム評価の追跡期間中央値は9.2年(IQR:6.2~10.6)、全生存率評価の追跡期間中央値は10.2年(8.9~11.6)だった。
  4. 胃がんは、除菌治療群が832例中10例(1.2%)で発生し、プラセボ群の844例中23例(2.7%)と比較して、頻度が有意に低かった。
  5. 胃がん発生例33例のうち、30例(90.9%)がStage I、3例(9.1%)はStage IIだった。 
  6. H. pylori除菌の状況別の胃がんの発生は、1,587例(H. pylori除菌達成例608例、持続感染例979例)で評価が可能であった。
  7. 胃がんは、H. pylori除菌達成例が608例中5例(0.8%)で発生し、持続感染例の979例中28例(2.9%)に比べ、頻度が有意に低かった。
  8. 胃がんが発生した除菌治療群の10例のうち、5例(50.0%)にH. pyloriの持続感染が認められた。持続感染例では、除菌治療群とプラセボ群で胃がんの発生は類似していた。
  9. 除菌治療群の917例中16例(1.7%)およびプラセボ群の921例中18例(2.0%)が死亡し、全生存率に関して両群間に有意な差はなかった。また、胃がんによる死亡はみられなかった。 
  10. 薬剤関連有害事象は全般に軽度であり、頻度は除菌治療群がプラセボ群よりも高かった(53.0% vs.19.1%、p<0.001)。
  11. 除菌治療群で多い有害事象は、味覚変化(32.3% vs.3.5%、p<0.001)、悪心(6.6% vs.3.2%、p=0.001)、下痢(22.3% vs.6.1%、p<0.001)、腹痛(4.6% vs.0.9%、p<0.001)であり、有意差はないが消化不良(7.9% vs.6.1%)の頻度も高かった。 

 

今回の研究をまとめると、

  1. 第一近親者に胃がん罹患歴のあるピロリ菌感染者はを除菌する事によって、胃がんを予防できる可能性がある。
  2. ただし、除菌が達成されなかった患者の胃がんリスクは、除菌達成例と比較し高く、そのリスクはプラセボ群(除菌を行わなかった群)と同等であると考えられる。
  3. 今回のデータは、検査の適応があり、検査結果が陽性の患者は誰もが除菌治療を受けるべきであり、治療後は除菌成功の結果を確認する必要がある。

 

 今回の研究は第一近親者に胃がん罹患者がいるという条件下で行っていますが、近親者に胃がん罹患者がいるいないに関わらず、慢性胃炎胃潰瘍、十二指腸潰瘍の既往歴のある人は医療保険が適応されるので、ピロリ菌の検査を受けることを強く推奨します。その検査でピロリ菌を保菌していると判定されれば、お薬を飲んで内服による除菌治療を行いましょう。除菌薬はお薬ですので、若干の副作用は伴います。その副作用の主なものは、味覚変化、悪心、下痢、腹痛などの症状です。しかし、この副作用は僅かですし、将来的に胃がんを発症するリスクに比べたら、まだましかな・・・っといったところでしょう。

そして、除菌したらこれでOK!!と思ってはいけません。ピロリ菌の除菌が出来ているかどうかの再検査を必ずしましょう。この再検査は1回目の除菌治療の際、主治医の先生が再検査するよう勧めてくれるはずです。もし、1度目の除菌検査で除菌達成が出来ていなければ、状況は変わらず胃がん発症率が高いままです。

 

胃がんを発症しない最大の方法は、ピロリ菌検査をして、感染してたら除菌して、再検査して、、、それでもピロリ菌がいたら、再度除菌治療を行う。』です。

ピロリ菌検査で守れる命があります。ご自身だけでなく、ご家族ご友人にも、予防医療であるピロリ菌検査をお勧めしてみて下さい。

 

 

参照:ケアネット 菅野 守氏

原著論文:

Choi IJ, et al. N Engl J Med. 2020;382:427-436.

 

*1:NEJM誌2020年1月30日号