現役メディカルスタッフが語る!!健康な身体と心を手に入れる極意

循環器専門病院に勤務するメディカルスタッフ(健康オタク)が、最強の身体と心を手に入れるための方法を伝授します!巷のうわさ話ではない、科学的根拠(Evidence)に基づいた健康法を医療専門家の視点から徹底的に語ります。

2型糖尿病患者にとって、最的な食事とは!?

 糖尿病の患者さんが、「何を食べたら、病気が進行せず、健康的な生活が過ごせるか!?」これは、栄養学の観点からも注目を集めている課題のひとつです。

 

糖尿病とは、その名の如く「尿中に糖が排泄される病気」ですが、血液中に過剰な糖が存在することで、血液中の糖の値(血糖値)が上昇します。高血糖を維持し続けると、全身の慢性的炎症により、引いては、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経症を引き起こします。

最近の研究では、糖尿病患者さんは、そうでない患者さんと比較してガンの発症率(膵臓ガン、肝臓ガン、大腸ガン)が高く、また急性心筋梗塞の発症リスクも3倍高くなるといわれています。

さらに、維持透析を導入する患者さんの割合は、4割が糖尿病患者さんであると言われています。

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今回は、その中でも食事療法に焦点をあててお話していきたいと思います。

11月11日~13日に行われた、第22回日本病態栄養学会において、新潟大学大学院血液・内分泌・代謝内科教授の曽根博仁先生が、本邦における2型糖尿病を対象とした2件の調査を紹介し、そこから見えてきた2型糖尿病患者さんの食事内容の問題点と食事療法についてお話して下さいました。

 

肥満でなく代謝異常が心筋梗塞発症のリスク因子

この20年間で、日本人の肥満傾向は増大している(BMIが20年間で22.9⇒26.2に増加)。しかし、肥満は必ずしも糖尿病の予後を決定づけるものではないという事が分かりました。

あるビッグデータを用いた結果から、肥満と代謝異常の有無別に心筋梗塞発症リスクを検討した結果、肥満の有無で発症リスクに差はなかったが、代謝異常(高血圧、中性脂肪高値(高TG)、善玉コレステロール低値(低HDL))のある患者の方が、代謝異常のない患者に比べて有意に発症リスクが高かった。

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このことから、「糖尿病コントロールにおいて、肥満の有無よりむしろ高血圧や脂質異常症の有無に注意を払うべきなのであると考えられる。

 

研究背景・研究結果

いずれも日本人を対象とし、1996年に登録が行われたコホート研究であるJDCSの結果と、その約20年後に、糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)が行った多施設共同の2型糖尿病患者を対象に実施された食事調査研究(以下、JDDM)の知見を中心に紹介した。JDCSは全国の糖尿病専門59施設の外来における2型糖尿病患者のコホート研究。一方のJDDMは全国の糖尿病専門クリニックにおけるコホート研究で、この2件は実施年代が異なるものの、栄養調査はほぼ同じフォーマットが用いられている。

 2件の患者背景を比較すると、平均年齢はJDCSが58.7歳、JDDMが61.9歳、HbA1cはJDCS(7.9%)に比べてJDDM(7.2%)で良好なコントロールが得られていたが、BMIはJDCSの22.9に比べてJDDMでは26.2と大幅に増加。この20年間にわが国でも肥満型の2型糖尿病患者が増加していることが示唆された。  

 しかし、肥満は必ずしも糖尿病の予後を決定付けるわけではない。同氏らがわが国の診療報酬請求と特定健診ビッグデータを用いて、耐糖能ごと(正常耐糖能群、境界型群、糖尿病群)に分けて肥満と代謝異常の有無別に心筋梗塞発症リスクを検討した結果、同じ耐糖能グループ内ではいずれも、肥満の有無別で発症リスクに差はなかったが、代謝異常(高血圧、高トリグリセライド血症、低HDL血症)の有無別で見ると、代謝異常がない患者群に比べて代謝異常がある患者群で発症リスクは有意に高かった。

 

 

食事療法と運動療法の両立

日本人の2型糖尿病患者が肥満になる要因として、

  1. 摂取エネルギー量が、成人男性:2000kcal、成人女性:1800kcalを上回る
  2. 身体活動が、成人男性:10MET/h、成人女性:8METs/hを下回る(1時間の普通速度の歩行は3METs/hに相当)

の二つが挙げられます。また、食事か運動のどちらか一方を頑張っても肥満を回避することは出来ず、運動・食事療法を継続的に維持していくことが大切である。また、早食いの自認は肥満を助長するとも考えられています。

 

炭水化物の摂取割合は全カロリーの45~65%がbetter

 よく議論される話題として、糖尿病の進行を防には糖質制限食が善か悪か?の問題がある。

あるメタ解析の結果でも、高炭水化物群(炭水化物58%/脂質24%)と低炭水化物群(炭水化物40%/脂質40%)では、血糖値には両群で大差がなかったという報告がある。*2

 また、炭水化物摂取割合(45~65%)と合併症発症リスクとの関連が前向きに検討され、炭水化物摂取割合は腎症、網膜症、大血管症の発症率に有意な影響を与えていなかった。

 

以上の結果から、炭水化物のエネルギー比について「現在の基準である50~60%からもう少し幅を広げて、45~65%程度にしてもよいかもしれない」としている。

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この20年で野菜や果物、魚介類の摂取量が減少

 この20年間で、カロリー摂取量に大きな差はなかったが、食事内容については、大きな変化があったそうです。それは野菜や肉、魚介類の摂取量である。20年前は年齢にかかわらず肉の摂取量は少なく野菜、魚介類の摂取量が多かったが、最近になり、肉の摂取量が増えた一方、野菜や魚介類の摂取量は大きく減少しており、特に60歳未満ではその傾向が顕著であるそうです。

野菜や果物の摂取量が少なく、肉が多い食生活を送っているとどうなるのか?
  • 野菜や果物の摂取量が多いと、脳卒中のリスクは65%低下する
  • 野菜や果物の摂取量が多いと、網膜症発症リスクが低下
  • 肉の摂取量が多いと(20g以上/日)、冠動脈疾患の発症リスクが3倍上昇
  • 塩分の摂取量が多いと、心血管リスクが上昇

研究結果

JDCSでは、食物摂取量と合併症との関連を調査している。野菜や果物の摂取量で四分位に分け脳卒中発症リスクを調査した結果、野菜や果物を最も多く摂取していた群では、最も摂取していなかった群に比べてリスクは65%も低下していた。また、果物摂取量で四分位別に網膜症発症リスクを調査したところ、発症率は最も多く摂取していた群で最も低かった。さらに、肉の摂取量が1日20g以上の患者群では、20g未満の群と比べて冠動脈疾患の発症リスクが3倍に上ることが示され、食塩摂取量が多いと心血管疾患リスクも上昇した。

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2糖尿病患者さんにとっての最適な食事療法とは!?

  1. 目標BMIは死亡率や大血管症リスクから判断しても、5~25.0の比較的広い範囲内で個別に設定する
  2. カロリー摂取量も、画一的な計算式で決定するより、現在の食事摂取や血糖コントロールの状況と目標BMIを参考に医療スタッフと柔軟に個別化してもよい。
  3. 肥満予防については、身体活動量や早食いなどの食習慣にも留意た必要。
  4. 炭水化物のカロリー比については、合併症リスクを考えても、現代の患者の平均的な食事範囲内(45%~65%)であれば、現在のガイドライン推奨(50~60%)より、もう少し幅を広げても良いかもしれない。
  5. 糖尿病の合併症の予防を目的に、野菜・果物、食物繊維の摂取量を増やし、肉類や塩分の摂取は抑えたほうが良い。

食事療法に関して言えば、糖尿患者さん全てにおいて、画一的な食事療法はいと思う。血糖コントロールの状態(食後血糖値、HbA1cなどの血液データ)を観察しながら医療スタッフの指導のもと、患者さんは実践する必要がある。

また、患者さんの身体状態に合わせた運動療法も組み合わせると、さらに良好な血糖コントロールが行えるかもしれない。

短絡的に、肥満であるか否かという見た目の問題ではなく、血圧、代謝異常の有無(中性脂肪値、善玉コレステロール値、悪玉コレステロール値)などの血液データも観察しながら、各々の患者さんにあった生活習慣改善へ向けた試みが必要であると思う。

*1: Diabetes Metab 2017; 43: 543-546

*2:Diabetes Care 2009; 32: 959-965